理系パパのカメラ奮闘記

2児の父親。理系の視点でカメラを勉強します。

【物理編】被写界深度は計算できる! 「とりあえず開放F値」から卒業しよう

前回、前々回とボケの要素、被写界深度、許容錯乱円について説明してきました。

 

kenzoi.hatenablog.com

 

kenzoi.hatenablog.com

 

今回は被写界深度定量的な説明になります。

 

 

 

始めに結論!  前方被写界深度と後方被写界深度は以下の式で求められる

被写界深度 = 前方被写界深度 + 後方被写界深度

前方被写界深度 = 許容錯乱円径 × F値 × 被写体距離^2 / ( 焦点距離 ^2 + 許容錯乱円径 × F値 × 被写体距離 ) 

後方被写界深度 = 許容錯乱円径 × F値 × 被写体距離^2 / ( 焦点距離 ^2 - 許容錯乱円径 × F値 × 被写体距離 ) 

 

個人的に嫌いな「式だけ見せつけられて」のパターンです。

なぜ結果を最初に示したかと言えば、カメラを操作するうえでは導出過程はもちろん式を覚える自体全く不要だからです。

 

よって撮影のための情報収集であれば勝手に被写界深度を計算してくれるサイトを利用するのが吉だと思います。

例えば以下のサイトです。

https://keisan.casio.jp/exec/system/1378344145

 

とは言え上記式では定性的に有効な情報を示唆しています。基本分母の符号が入れ替わっているだけなのでA,B,Cで表すと

前方被写界深度 = A / ( B + C )

後方被写界深度 = A / ( B - C )

つまり、後方被写界深度の方が前方被写界深度より深いことが式上からも見て取れます。

 

 

被写界深度の式を導出する! レンズの公式、相似を利用すれば被写界深度の式が導き出される

表題の通りで、基本はレンズの公式と相似を利用することで被写界深度の式が導出されます

今調べてみたらレンズの公式は高校で学ぶみたいですので、高校までの知識があれば導出が可能ということです。と言うかレンズの公式自体も結局は相似を用いて証明するので、極論を言えば中学までの知識でなんとかなる代物です。

 

というわけで事前の各種定義

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O0 : 被写体距離

O0 - O1 : 前方被写界深度

O2 - O0 : 後方被写界深度

S0 : 撮影素子からレンズまでの距離

ε : 許容錯乱円径

D : 有効口径

 

ここでレンズの公式より

1 / O0 + 1 / S0 = 1/f     (1)

1 / O1 + 1 / S1 = 1/f     (2)

1 / O2 + 1 / S2 = 1/f     (3)

3角形の相似より

ε / D = ( S1 - S0 ) / S1    (4)

ε / D = ( S0 - S2 ) / S2    (5)

 

上記5つの関係式を用いて黙々と計算すると前方被写界深度、後方被写界深度が計算できます。興味がある人は鉛筆を持って是非。30分くらいの時間つぶしができます。

導出過程のテクニックとしてはf / Dをその定義通りにFに変換するくらいでしょうか。

 

ここまで書いておきながら今回はその導出過程は省略します。

理由は一つ。

過程だけならまだしも、算出結果も恐ろしいほど美しくない! そりゃ自分で計算せずに算出サイトを利用しようというアドバイスになります。

E = mc^2を少しでも見習ってもらいたいものです。

 

 

被写界深度を計算してみよう!

では実際に被写界深度を計算してみます。

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開放F値で撮影

サンプルは上の写真を撮影した際の条件とします。

焦点距離   :35mm

F値     :1.4

被写体距離  :0.5m

許容錯乱円径 :0.01mm      ※ここの考えは後述します

上記条件を計算すると以下となります。同じように上のサイトを利用しました。

前方被写界深度 :2.84mm

後方被写界深度 :2.87mm

被写界深度   :5.71mm

つまり何気なく開放F値で撮影した写真ですが、被写界深度はたった6mm弱(後方被写界深度に至っては3mm弱!)とかなり浅いことがわかります。

前回の記事で右の眉毛にピントが合っていて右目は対しては微妙に前ボケと言っていたのですが、定量的にも間違っていないことが確認できました。

 

では自分はどのF値を用いれば良かったのでしょうか?

これも計算すればある程度判定できますので、一度グラフ化してみました。

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被写体距離と被写界深度の関係(F値変更)

個人的には右目にピントを合わせたうえで前後1cmをピントの合う範囲と考えていたので、F値2.8を選ぶべきだったことが導き出されます

 

このように毎回計算することはまずないかと思いますが、ある程度把握しておくのは悪くないことだと思います。

少なくとも自分は計算するまでまさか5mmのピントを狙いに行った写真だとはつゆほども思っていなかったので。。

 

一度自分のサンプルで計算してみると面白いかもしれません。

 

 

F値被写界深度焦点距離被写界深度の関係を整理する

 先ほどの条件はF値が1.4だったり被写体距離が0.5mであったりと極端だったので、一般的な条件で整理してみました。

 

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F値を変えた場合

まずF値を変えた場合です。

例えば被写体距離が10mの条件で被写界深度を比較してみます。

F1.4だと2m強の被写界深度に対し、F11は約18mとかなり深くなっていることがわかるかと思います。 

 

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焦点距離を変えた場合

続いて焦点距離を変えた場合です。

こちらも被写体距離10mで比較すると、焦点距離16mmで約22mだった被写体距離が焦点距離56mmだと2m弱とかなり浅くなります。

ボケさせたい場合、焦点距離が長いレンズを用いるとよいというのはこの演算結果からもわかります。

 

 

【番外編】許容錯乱円径はどう設定すべき?

許容錯乱円径は出力した写真で判断します。大きな写真の方がボケに気づきやすいのはわかるかと思います。

複数のサイトで以下の式を見かけましたが、正直フィルム時代の名残に思えます。

許容錯乱円径 = フィルムや撮影素子の対角線長 / 許容錯乱円径用の定数(1000~1500)

 

というのも今はパソコンやスマホで鑑賞することが主になっている人も多く、その条件で許容錯乱円径を設定すべきだと思うからです。

 

では今回の鑑賞において許容錯乱円径はどう設定すればいいでしょうか?

 まず、自分は等倍近くに拡大してボケを判断していました。つまり、ほとんど画素ピッチ = 許容錯乱円径に近い状況だと言えます。とはいえ自分が画素ピッチレベルのシビアな目を持ち合わせていないため、若干えいやで×3としました。

許容錯乱円径 = 画素ピッチ3.9μm × 3 = 0.0117mm

となり、きりのよい数字である0.01mを許容錯乱円径として設定しました。

 

ここら辺の感度は各個人で異なってくる領域だと思います。

 

 

まとめ

今回の記事では被写界深度の計算式を提示し、被写界深度に対する定量的な考察を行ってみました

わかったことはパパママカメラマンは被写界深度として結構シビアな条件で撮影していること

すぐそばの子供を開放F値で撮影してピントが合わないと嘆いている人はいませんか? もしかしたら自分と同じように被写界深度が1cmもない条件で一生懸命試行錯誤しているだけかもしれません。

薄暗い条件ならまだしも、ある程度光が確保できている条件であれば無条件で開放F値で撮影するのは控えた方がいいかもしれませんね。

まあその分、ガチピンになるととんでもなく気持ちよかったりするのですが。。